2016年10月31日月曜日

ハロウィーン




光陰矢の如し。
日記を書き始めてからはや一週間。なんとかサボらずに毎日つまらぬことを書き綴っている。今のところは全く苦しくない。たった三日前のことでさえ、読み返すとなかなか楽しめるのだから、じいちゃんになった時が楽しみでしょうがない。ひょっとしたら、じいちゃんになって日記を読み返した僕は、興奮しすぎて死ぬんじゃないだろうか。すると死因は他殺か、はたまた自殺か?どちらにしても、面白さに興奮しすぎて死ぬってのは一番最高の死に方じゃないか。是非、興奮で死にたい。僕は、じいちゃんになった僕を、興奮病で殺すために、一生懸命、面白いものを書こう。世のじいちゃんがみんな忘れちまってるような若さが大爆発してて、脳がパンクしそうになるほど、考え込ませるものを書いてやろう。またひとつやる気が湧いてきたぞ。僕には日記の才能があったのかもしれない。こんなことならもっと小さい時から書いておけば良かった。後悔先に立たず。年を取れば取るほど、人間の記憶は失われていくようだから、なるべく若いうちに覚えていることを書いておいた方がいい。今日からはその日のことに限らず、昔のことも積極的に書いてみよう。何かあればだが。


とりあえず今日はハロウィンだ。Halloween。ハロウィーン。ハロウィーンの方が断然いい。テンションぶち上がりだ。この気持ちが分かる人と結婚したいものだ。
テレビを見ると、渋谷は仮装した若者たちで溢れていたみたいなんだけど、普通の公立高校の普通の男子学生である僕にとっては、特別何かすることもなく、ただ気候に合わせて学ランを着て、意味もなくちょっとウキウキしながら学校へ行くだけだ。学校全体が1センチだけ宙に浮いているようなふわふわした気持ちはあるんだけど、傍から見ればそれは前日となんら変わらず、ただ或る秋の学校風景が白々しく流れているだけだ。そこで、普通でない男子学生代表の宍戸に、僕はほのかに、いや実際大いに期待していたのだが、いざ宍戸のクラスを覗いてみると、あいつはいつも通りの紺のベスト姿で、珍しくちゃんと自分の席に座っていて、テンションなんかはむしろ普段より低いくらいだった。まぁ、宍戸だって365日おかしなことをしているわけではない。僕は宍戸に期待しすぎている。明日からは僕がこの日記の主人公らしくなれるよう、一生懸命、若く、熱く、おかしく、生きる!

昼休み。ハロウィーンは何一つ面白いことがないじゃないかと、僕は半ば絶望しかけていた。が、下で昼練をして、終わって教室へ帰ってきたところで、突然、橋野さんに話しかけられた。
「あ、本田っち、本田っち。」
「はい。」
「これ、あげる。ハロウィンだから。」
橋野さんは、両手で少し小さなタッパーを持っていて、その中には、ビスケットかクッキーかケーキなのか分からないもの(僕は本当に食べ物に詳しくないんだ!!)が綺麗に並べられていた。僕がお礼を言って、端っこのやつを一つ取ると、
「こっちも違う味だから。」と、違う列のほうも渡された。橋野さんはそのケーキか何かを僕の手の上に乗っけると、スタスタどこかへ行ってしまい、僕も両手にお菓子を持ったまま自分の席へさっさと戻った。そのお菓子は柔らかくて、味も抜群においしかったのだけど、おいしかったと橋野さんに言うのを忘れてしまった。もしかして、ものすごい失礼なことをしてしまったのだろうか。橋野さんは、5、6時間目は、妙に忙しそうにしていたから、しょうがない、ということにしておこう。ハッピーハロウィーン。ハロウィーーン。満足満足。


塾、黒木先生。すごい笑ってくれるから調子に乗って話しすぎてしまったかも。ついつい、橋野さんのことまで口走ってしまった。「高校生はいいなぁ。」って黒木先生は言っていたけど、大学ではハロウィーーーンやらないのかしら。僕は、大学ってのは、あらゆるイベント毎にどんちゃん騒ぎをしているもんかと勝手に想像していたから、この黒木先生の反応には驚いた。とは言うものの、実際はどんちゃん騒ぎをしてきた後で、僕たち高校生には刺激の強い話は控えるようにしているだけなのかもしれない。もしくは、僕たち生徒が全員帰った後で、大ハロウィーンパーティーがこの教室で行われるのか?とはいえ、三年生のことで忙しいだろうに、僕のつまらない話で時間を取らせてしまったのならそれは本当に申し訳ないな。
見た限りでは、塾にも仮装している人はいないし、ハロウィーン感はゼロ。まぁ、塾だしな。でも、帰りの横浜駅も別に変な人は見かけなかった。ドンキの方へ行ったら、面白いものが見れたのかもしれない。もちろん、僕の地元には仮装している人なんているわけがない。


明日は11月1日。いよいよ席替えだ。僕にはある種の予感がしていて、どうも落ち着かない。でもこれは言ったらダメになってしまいそうだから、書かないことにしておこう。
言わぬが花。
日記を書いてから、僕は少しだけ明るくなった気がする。














只今、夜中の三時。勤勉な受験生の姉貴もさすがに寝てる。母さんはいつからあんなにイビキをかくようになったのか。
とりあえず眠れないので作戦変更!

僕は橋野さんの隣になる。

そんな予感がしているのだ。
言霊は未来をねじ曲げるのか?
今のところ、僕は橋野さんが好きなわけではない。
でも、たぶん隣だ。