2016年10月20日木曜日

アリエルの話

「海底2万マイルにアリエルがいるんだって」
「へぇー、知らなかった」
「なかなか見つからないんだよ、だからみんな一生懸命探すんだって」
「マジか、それは燃えるな」


カップルが言うようなアリエルは、実際いない。
だが、作者はここでこの2人を突き放すつもりはないのである。

「おーい」
女は男に必死で呼びかける。
「なんだ?」
男は無愛想である。

駄作である。
作者は何も浮かばなくなってしまった。
もともとこれは浜村アドバイザーに頼まれて書き始めた。
「アリエルの話、してくださいよ」
無理な要望である。女は全く身勝手で困る。

浜村アドバイザーが、入ったばかりの頃、私は彼女の事を親しみをこめて「アリエル」と呼んでいた。しかし、最近は呼ばなくなった。年齢的に無理があろう。本当に自然と呼ばなくなったのだ。

「ハーマイオニー」
これも浜村アドバイザーのニックネームである。が、私以外で呼んでいる人を見たことがない。
そもそもハーマイオニーは、私の初恋の女性である。そんな尊いお名前を、彼女に捧げるのはどうかと思い、これも今では全く呼ばない。それにやはり年齢的にも無理があろう。

私の横で、私の書くのを見ていた浜村アドバイザーは、もう飽きてしまったのか、食事を買いに出かけてしまった。
今、私は一人である。
アリエルはいない。