2016年10月17日月曜日

私が鳥だった頃の話

私がまだ鳥だった頃の話。
私はこの横浜近辺を自ずから避けるようにしていた。何故ならば、昔フラれた男がこの辺に住んでいたからだ。
無論、この男とは鳥であり、私の性別はメスであった。

ある日のこと、今日のように天気が良かったので、私は鎌倉を飛んだ。鎌倉が好きなのは、鳥だって一緒である。海で獲物を捕らえたあと、さて帰ろうかしら(私の巣は東戸塚というところにあり、当時はまだ、人の住まないただの山である)と、円覚寺から建長寺の方を覗いていると、そこへあの男が飛んできた。男は、建長寺の門に止まり、連れの女と突っつきあっている。ひどく悲しい気分になった私は、思い切って上からフンをした。どちらに当たっても良かった。しかし、フンはいちゃつく二羽を外れ、門の下を走って逃げようとしていた人間の男の目に入った。どうやらその男は賽銭泥棒だったらしく、痛みに転げ回っているところを、寺の和尚に捕らえられのだそうだ。
意図せずして功をあげた私は、神様のもとに招待され、新しく人間へと生まれ変わる運びとなった。

天界で列に並び、再び人として俗世に生れ落ちたのは、織田信長とかいう猛者が活躍する酷く暗い時代であった。というのも、現在の私の人生は、カワウソを挟んで二度目の事である。したがって、私が鳥であった頃の話は、今からすれば、前前前世といったところであろうか。