2017年1月31日火曜日

体さん


体に気を使う年になった。


そう思う、いやそう思わざるを得ない出来事があったのである。
あれは、昨夜の話だ。1月だというのに、いやに生暖かい夜であった。
私はその夜、会社のティームで肉を食いにいく約束があった。
この肉は、いつもの肉ではない。じょじょ肉である。いわゆる高級な肉ってやつだ。

「じゃあ、このコース4人前で」
最年長の男が平然と注文する。しかし、その手は震えていただろう、実際に見たわけではないが、震えていたに違いない。そうでなければ、よっぽどの金持ちか阿呆に違いない。そのどちらでもないはずだから、彼の手は震えていたと確信できるのである。

「お待たせしました」
肉が当然のように机に並べられる。
私は怖かった。いままで、牛の肉を食ったことがないわけではなかったが、これほど分厚く、脂の乗った肉を食うのは初めてだったからである。

「うまい!」
大きな声が聞こえた。堀口である。またあの男だ。私は彼の余りにも単調で淡白な感想に落胆し、いよいよ嫌気がさしたが、肉は確かに上手かった。なので今回だけは見逃してやることとした。

駅で皆に別れをつげ、私は上機嫌で家と帰った。その堂々たる帰宅には、われながら賛辞を送りたい。あぁ、みんなにも見せたいものであった。


しかし問題は翌朝あきらかになった。



朝は私は最悪な気分で目が覚めた。圧倒的な胃の不快感である。あの肉に浮かび上がっていた全ての脂が、胃の中に沈殿しているのである。あの禍々しさは、それはそれは、とんでもないものだ。
食いたいものを好きなだけ食う、そんなことはもう許されないのである。体と私は全くの他人の関係であることをここで改めて自覚した。食いたいというわがままな”私”を体は全くもって許してくれないのである。呼び捨てにするのも失礼であるし、これからは敬称を忘れないようにしよう。

体さんとはこれからも騙しあいになるだろう。
人生まだまだ長い、体さんとは改めて信頼関係を構築していこうと思う。