2017年1月22日日曜日

瞑想


「私よく勉強に疲れたら瞑想するの」

彼女はそういった。
嘘だ!と思った。反射的にそう思ったのである。いや、思ったというより、もっと生理的な反応と言った方が正しいだろう。瞑想をするなど、修行僧でもあるまいし、あり得ないだろう。

「そうなんだ」

私はそう返したが、心にもない返事だっただろう。それも彼女にはばれていたかもしれない。
彼女は頭がいい。すこぶる頭のいい女である。その彼女がこんなにすぐにばれる嘘をつくだろうか。

「やってみよう」

私は自分を愚か者だと思った。我ながら最低である。私はそれを嘘だと分かっていながら、信じてみることにしたのである。いつもの書斎に座り、私は目を閉じた。

「落ち着かない。」

私はそう思った。目を閉じた瞬間、頭の中の細胞が一気に活性化し、目まぐるしく動きだすのである。これを西洋の言葉でカオスというらしい。まさにそれであった。私は怖かった。勉学につかれた後、こんな事をして心が休まる訳がない。不安を煽るばかりである。

「なんだやっぱり嘘か」

私は目を開けて、そうつぶやいた。私は安堵した。目を開けても、なにも世界は変わってなかったからである。あの不安は私が作り上げた虚構であることが、現実だと分かったからである。と同時に私は怒りを覚えた。彼女の嘘を問い詰めてやると決意した。

翌日、私は彼女に文句を言おうと思い、彼女のもとを訪れた。彼女は机に向かって目を閉じていた。ちょうど夕暮れのころであった。
私は文句が言えなかった。目を閉じた彼女の姿がとても美しかったからである。凛とした彼女の表情には一間の曇りもなく、透き通っていた。透明だった。
彼女は無事、第一志望に受かった。

「よかった」

私はそうおもった。