2016年11月2日水曜日

マナビスinワンダーランド




☆マナビス エントランスホール


 スタッフ、にこやかに仕事をしている。

 中原、自習室を飛び出し、清水のもとへ駆け寄ってくる。

中原「先生、さっき言ってたやつはどこにいますか?」

清水「え、だれ?」

中原「面白いって言ってたじゃないですか。」

清水「あぁ、津島くんのこと?なんで?話しかけるの?」

中原「僕よりも面白いやつがいるなんて聞いたら、全然授業に集中できないですよ。」

清水「中原くんより面白いなんて言ってないじゃん。津島くんは楽しい人だから、きっと二人は仲良くなれるって言っただけだよ。」

中原「先生、最近そいつの話ばかりですよ。」

清水「そうかなぁ。」

中原「そうですよ。とにかく気になるんです。今日はそいつ来てますか?」

清水「うん、津島くんは授業取ってないから、こっちの部屋にいると思うよ。」

 清水、左の部屋を指差す。

中原「分かりました。」

 中原、隣の教室へ向かい、勢いよく歩き出す。

清水「ちょっとウディくん、いつまで寝てるんだよ、そろそろ起きないと。あ、向田さんこんにちはー、何番にする?」

向田「お任せします」







☆マナビス 自習室B


 広い教室に津島が一人、一番前の席で何かを読んでいる。

 ドアが勢いよく開き、中原、登場。

中原「おい。」

 沈黙。

中原「おい!お前!」

津島「わぁ!」

 津島、驚き、持っていた本を放り投げ、机も椅子もひっくり返し、立ち上がる。立ち上がるとでかい。大げさな反応に、中原もかなり驚く。

津島「びっくりしたなぁ。」

中原「びっくりしたのはこっちだ!」

津島「僕を呼んだのかい?」

中原「僕かい?ってお前と俺しかいないのに、他に誰を呼ぶんだよ。馬鹿か。」

津島「なるほど、確かにその通りだね。」

 津島、大きく笑うと、本を拾おうとし、

津島「あ、元に戻していいかい?これは僕のお気に入りのコーディネートなんだよ。」

 津島、のんびりと周囲を片付け出す。

中原「お前が津島か?」

津島「如何にも!君はもしかして中原くんかい?」

中原「なんで知っていやがる!?」

津島「清水先生から話は聞いているよ。あの人は口が軽くていけないねぇ。僕らの個人情報も垂れ流しってわけだ。」

中原「でも先生は最近、お前の話ばっかりしているぞ。どうやらかなりふざけた男らしいじゃないか。」

津島「あの人の言うことを丸ごと鵜呑みにしちゃあいけないよ。きっと脚色しているねぇ。僕はただの凡人だよ。実際、君が喜ぶようなことは何一つできないダメダメ男なんだよ。でも、僕は君に会いたいと思っていたんだよ。君からはるばる会いにきてくれるなんてありがたいありがたい。」

中原「いいからそのヘラヘラ笑いをやめないか!馬鹿にしていやがる。俺は別にお前に会いにきたわけじゃないぞ!」

津島「面白いことを言う!では君は何しにここへ来たのだい?さっき君が自分で言ったように、この部屋にはどうやら僕と君しかいないようだ。」

中原「ここで勉強しようと思ってたが、、、不愉快だからやめだ!」

津島「ほほう。なんだって君は手ぶらじゃないか。それともその洒落た帽子の中に、単語帳でも忍ばせているのかい?」

中原「ヘラヘラ笑いをやめろ!やめないか!」

 津島、手を打ち、

津島「ようし、では飯を食おう!いや、真面目にね。腹が減っては喧嘩もできぬ。いっそこの退屈な教室を抜け出そうじゃないか!事実、勉強はあまりに退屈だ。」

中原「何でわざわざお前と飯を食わなきゃいけないんだ!」

津島「何でも何もない。それが人生ってもんだろう。さぁ、死ぬほど飯を食ってやろう。」

 津島、中原の方へのっそりと歩き出す。

 中原、身構える。

津島「勘弁してくれ、僕は丸腰の日本代表みたいな男なんだ。」







☆マナビス エントランスホール



 電話の音。清水、出る。

清水「はい河合塾マナビス横浜駅西、、、え、もしもーし。お名前いいですかー?もしもーし。___あ、のだめちゃんか、どうしたの?___え、何、ぜんぜんわかんないよ。___え、ちあき?あ、千秋くんいるの?___そしたら、千秋くんに代わってくれるかな、全然何言ってるかわかんないから。___あ、千秋くん久しぶりー、どうした?」

 ウディ、熟睡している。

 ハーマイオニー、起こそうとしている。

H「こら、起きないと。落第するわよ。」

ウディ「起きてるよ先生。目を閉じているから分かりづらいかもしれないけど、頭は高速フル回転しっぱなしなんだよ。」

H「屁理屈言わないの。さっきからずっとここにいるじゃない。」

ウディ「僕が自習室へ戻っても、地球は自転してるから、僕はまたここへ戻ってきてしまうんだよ。」

H「また屁理屈!」

清水「のだめちゃん、キャンセルでーす。」

H「え、理由は?ちゃんと聞いたの?」

清水「聞きましたよ、そろそろコタツを出すから、今日はお休みって。」

H「そんな理由ダメじゃない!ただでさえサボりがちなんだから、ちゃんと言ってあげてください!」

清水「はい、すいませーん。」

H「もう!こら!起きなさい!何時間寝てるの!」

ウディ「痛いな、叩くことないじゃないか。」

H「ほら、授業、授業。」

ウディ「時差ボケがひどいんだ、寝かしてくださいよ。」

H「時差ボケっていつの話よ、あなたもう日本来てから何年経つのよ。むしろあっちよりもう長いでしょ?」

ウディ「僕は愛国心が非常に強いみたいなんだよ。まぁ日本人には負けるけど、こわいねぇ。とにかくブルックリンはまだ夜中だ。みんなベッドでスナック菓子食って、バカアニメを見てる時間なんだよ。」

H「起きてるじゃない。」

ウディ「ロンドンだってまだ明け方だろう?どうして先生まで僕をいじめるんだ。アメリカに言語を取られた恨みか?」

H「違います。私は人種で人を差別するようなことはしません。」

ウディ「偏差値で差別する方がそりゃ立派かもね。」

H「いい加減にしなさい!」

ウディ「映像授業は僕には向かない!ど近眼なんだ!目が疲れちゃうよ!この前なんか、90分授業を60分見たところで気がついたんだが、僕のブースはパソコンのないブースだったんだ。チェックテストは満点だったけど、もちろん残りの30分は返金手続きしてもらったから文句はないよ。」

H「あなたって、ほんとにおかしいわ。」

ウディ「人間らしいってことですかね。」

 ハーマイオニー、諦めて去る。

 自習室Bから、津島、中原、出てくる。

ウディ「Hey! 津島!君にそっちの趣味があったとは思わなかったねぇ。なかなか小柄でべっぴんさんじゃないか。」

 中原、ウディを睨みつける。

中原「なんだこいつは。」

津島「悪い人じゃないんだよ。」

ウディ「悪い人じゃない人なんていないんだよ。」

津島「ウディ、君がいるじゃないか。」

ウディ「僕はいいユダヤ人だから、つまりはギリギリ悪い人ってとこだ。」

津島「ほう、興味深いねぇ。ところで、飯を食いにいくんだが、どうかな?この中原くんも一緒にだ。」

ウディ「あいにくラマダン中でね。」

津島「ハハハ、いつの間に改宗したんだい?」

ウディ「一ヶ月無料キャンペーンだったから、お試しでね。気に入らなかったら返金保障してるみたいだ。」

津島「宗教も今は大変なんだなぁ。じゃ中原くん行こうか。」

中原「いきませう」