2017年2月3日金曜日

立ち止まる事も人生である



男が呆然と立っている。不審である。


なぜ通らないのかと、聞きたい。聞きたかったが、不審すぎて聞けない。
雨が彼を濡らしても、雪が彼に積もっても彼はそこから動かないのである。
ただそこにたっている。
普段の私なら気にせず、通り過ぎてしまうのだろうが、今日はやけにヒマがあったので、気になってしまった。いや、彼がそうさせたのかもしれない。

私は彼を観察してみることにした。
男は青いスウツを着ている、金持ちでも貧乏でもなさそうだ。
いたって普通である。
しかしそれが問題なのだ。普通の男がなぜ呆然と立ち尽くしている、普通なら通るのだ、歩みを止めずに進むのである。
普通の男が普通の事をしない、それがよっぽど不審なのである。

私は懸命な観察によって、ある発見をした。どうやら彼の家が、彼の見つめる先にあるようである。
しかし彼はそのトンネルの前に突っ立ったままなのだ。
どうした。どうしてそこを通らない。
気になって仕方がなくなってしまった。


日もすっかり落ちてしまった。
もういよいよ嫌気がさしてしまった。もはや嫌いになりそうである。面倒なやつめ、もう我慢できん、聞いてやる。そう私は決心した。

「何しているんですか」

「あちら側に行きたいのですが」

「どうしてですか」

「家があるのです」

それみろ、私の観察は正しかった。私は安堵しつつ、更に追及してやることにした。

「なぜ通らないんですか」

「通れないんです」

「通れるじゃないですか、ほら!」

私は、堂々とそのトンネルを通りながら言ってやった。馬鹿なやつである、と思っていた。
彼は恥ずかしそうな顔をしながら、そっと指をさした。
それを見て私も納得したのである。


”高さ1.85mまで”






男の名は松本。
背丈はゆうに3メートルを超えている。