2016年8月17日水曜日

【清水作短編小説】アドゥヴァイスタイム

 そろそろ本気で塾長に相談してみようか、とKは真面目に考えていた。ただ自分のためだけでなく、この塾、塾長、そして先生の為にもそうするべきであろう、と思い立ったのである。塾長は笑った。
「それで本当に成績が伸びるならぜひお願いしたいくらいなんだけどなー、でもS先生も毎日来るわけじゃないし」
「出来る限りでいいのです」
「だから無理だって、S先生には内緒にしといてやるから安心しろって」
Kはそれほどショックを受けなかった。やはり他人には理解の限界というものがある。Kは素直に頑張ろうと思った。
 頑張りは偉大であった。Kはみずからの努力によって、S先生との面談の機会はいくらでも作り出せることを知ったのである。KはS先生との面談の時間を自らの褒美とし、それ以外の時間をすべて勉強に捧げた。いうなれば、Kにとって勉強とは、面談までの待ち時間であったのだ。彼は先生との関係がより深いものになれば、学業の成果が出ることはもちろん、二人の未来が明るくなるという確信さえあった。そしてS先生はいつでも期待以上の癒しをKに与えてくれた。Kの確信はある意味当たっていたのかもしれない、彼の成績はぐんぐん伸びたのだ。S先生は褒めてくれた。
「すごいね、この前野球引退したばっかりなのに!」
Kは戸惑い、思考をめぐらした。S先生はそれに気づくと、きれいな二重の目を大きく見開き、満面の笑みで続けた。
「あ、ごめんごめん、なんか髪短くて似てる子いるから間違えちゃった、ハハ」
Kは苦笑した。