2017年5月6日土曜日

こんにちは、清水です。



目玉が二つあるのは事物を立体的に捉え、または事物との距離感をはかるため。耳が二つくっついているのは平衡感覚を保つため。では、鼻はどうだろう。右の鼻腔で吸った匂いと、左の鼻腔で吸った匂いを調節し、匂いのバランスを取る。まさか。

夢を見た。未来の夢である。僕はまだ肌がツルツルで、エネルギーに満ち満ちた感じだったから、そんなに遠い未来の事ではないと思われる。
そこでは、その未来と思しき世界では、小さくなれる。人は小さくなるか、ならないかを選択しながら生きている。とはいえ、これは面白おかしく伸びたり縮んだりするコメディタッチな雰囲気で語るべきことでは決してない。覆水盆に返らず。今の感じで言うならば、刺青のような、要するに小さくなったならもうその人は、再び大きくなることはできないのである。
さっきも言ったと思うが、一応この世界は未来の世界である。争い的なsomethingは、もはやここでは見られない。核兵器は全て火星に分別して捨てられて、キムジョンウンさんは最近日本のクイズ番組に引っ張りだこだ。平和平和平和。超平和。イスラム国も国連加盟。刑務所は必要なくなった。人々は毎日を穏やかにすごし、きっと明日はもっといい日。
いやいやいやいや、だからと言って、男女の揉め事的なsomethingはいつの時代もあるはずだろう、とお思いになったそこのあなた、鋭い。確かにホームレスはいなくなっても、男女の揉め事的なsomethingは完全になくなったとは言い難い。しかし、そこは未来である。いつだってより美しい社会、世界の実現のため、最善の道を選んできた人間は、一生懸命考えた。各国のお偉い方々が考えに考え抜いて出した結論、そう、ついに人は小さくなることを選んだのだった。
プロポーズをする。小さくなる。左右を選ぶ。鼻に入る。
まさにこれである。夫は結婚と同時に小さくなって、妻の鼻に入ることになった。まぁよく考えれば、当然の結果のようにも思える。小さくなっているので浮気も不倫もDVも何もない。離婚率はほとんどゼロだ。というか、離婚届を手で持つことすらできない。
僕も迷わず小さくなる道を選んでいた。左を選んでいた。愛する人の左の鼻に住む、そのためだけに生まれてきたのだと確信した。が、月日が経つにつれて、右が気になった。右に行きたい。右を見てみたい。右はいったいどうなっているんだ?もしかして右に別の男を住まわしていたりしないだろうか?左に住んで13年、とうとう僕は右を目指した。
ここで、世界がぐるっとなった。夢の場面展開ほど無秩序なものはない。世界は未来から古代へ。どうやら紀元前のローマへやってきたようだった。そこで目にした景色を簡単に説明すると、阿部寛的なsomeoneが、左手を真っ直ぐ前に伸ばし、さらに真っ直ぐ伸びた薬指の先は、モニカベルッチ的なsomeoneの右鼻に直結しているのであった。さらに簡単に言うと、男の薬指が女の鼻の穴にぶっ刺さっていた。なんだこれはと思った矢先、上から天使が降りてきて、
「ローマでは結婚の誓いをたてるとき、お互いの指を相手の鼻の穴に入れたんだよ。これが現代の結婚指輪の由来なんだよ。」
と優しく教えてくれた。見ると、阿部寛的なsomeoneも相手の指を自らの右鼻に受け入れるところであった。
「愛の形はいつの時代も一緒なんだね。」
と言って、天使は空へと戻っていった。

目が覚めた。僕は鼻毛を切り整え、何かに向けて準備をした。




(「お隣さんはダニ」新潮文庫 2002年 初版)